コーヒーショップの常連さん

飲食店で働いていると、毎日同じ時間に来る常連さんと知り合いになる。私が働いているカフェでは、毎朝8時ごろに来て、必ずモーニングのAセットを頼むお客さんがいる。あまりにもAセットばかり注文するので、スタッフの間で密かにAセットさんと呼んでいる。

Aセットさんは来店し始めてから1年ぐらい、ほぼ毎回Aセットを頼み、もはや途中から注文を聞く前から、指をレジのパネルのAセットの場所に置き、喫茶店なのに「マスターいつもの」の感じが成立しつつあった。

ある日Aセットさんが、Aセットの他に単品のチーズトーストも頼んだ。大人なのに食べ盛りなのかなと思いつつ、いつものサンドイッチとコーヒーにチーズトーストもお出しした。初めての追加注文だったので少し気になり、なんとなくチーズトーストを食べているAセットさんの方を見たら、微妙に不満そうな顔をしていた。やっぱりAセットがよかったんだ。たまには違う物も頼んでみたけど、やっぱりAセットがよかったんだ。店員としてなにか失態を犯したわけではないけど、ちょっと悲しそうな表情を見て申し訳なくなった。というか面白かった。

その後Aセットさんは、Aセット+レタスハムサンド、Aセット+ジャーマンドックなどに注文を変えていったが、なかなかメニューが固定することはなかった。なんとなく、Aセットに匹敵するおいしさの物はなかったのかなと思った。

Aセットさんが次に来店した時は、いつも通りAセットだけを頼んだ。やっぱりそのスタイルが落ち着くのかなと思っていたら、サンドイッチを食べ終わったAセットさんが、カウンターに歩いて来て、もう一度Aセットを頼んだ。なるほど。その手があったか。もはやわんこそばだ。